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「 ――ようこそ、地獄へ 」
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壊滅衝動。往復運動。無謬なる変化。リピート。だからこその苦痛と自由。
今晩は、睦月です。
きっと、衝動とは、本能の願望故なのだろう。


留年しました。

■30分イラスト&一時間SS
アイリ

「ねぇ、切嗣。ほら見て。とっても綺麗よ」

朝。
アイリが窓辺に立ち、切嗣に語りかける。
笑いながら。踊るように。
外に見えるのは極寒の空気のみが可能とする現象。ダイヤモンドダストだ。
反射する大気。輝く結晶。踊るような煌きが早朝の景色を彩る。
何もかもが光輝の結晶に揺られる中。そこにもう一つの輝きを見る。
――ああ、何て、笑顔だ。
あまりにも眩しいと感じるが故に、ソレは切嗣への胸を抉る刃と成り得る。
切嗣は思う。
いつか、この笑顔を手にかけるときが来るのか、と。
自問の刃。理を曲げてまで理想を求めようとする、自分の生き方は、全ての命を平等にする。主観に満ちた自己世界において、全生命を一とゼロの数字に堕とす。
その理想は現実に地獄を具現させる。
『天秤たれ』と自分に課す切嗣は、全ての命に貴賎無く、殺す。
親も親戚も友人も――愛する人ですら。
……だからこそ、目の前の笑顔は。
これが。これこそが。
――僕の、罪科か。
愛しいと思えることこそが、切嗣にとっての罰なのだ。アイリの一挙一動が、存在そのものが、身を刻む刃。
だが、そうだとしたら。
(僕は一体、何をどうやって償えばいい……)
自分にとっての贖罪は何だ。屠ってきた命に報いる方法は。
分からない。分からないけれども。
確かなことは――

――きっと、この笑顔には価値があるのだろう。

〝笑顔が溢れる世界を〟。
笑顔は、幸せの形だ。そこに意味を見出したからこそ、切嗣は理想を貫こうとする。
そう、この価値ある笑顔は、切嗣にとって、罪であり救いなのだ。
――だから。
ダイヤモンドダストの輝きを背に、愛しい女が笑っている。
――切嗣は言うのだ。
切嗣は閉じた眼を開け、口を開く。
――その、価値ある笑顔に向けて。

「ああ、本当に――綺麗、だ」

独白のように呟いて、切嗣は笑った。

短編『笑顔の価値』
――<了>

◇今日のBGM◇
"calm" from ACIDMAN 「green chord」
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