何だか脱力気味。
今晩は、睦月です。
何とかせな。
■
気分転換が必要かも。
何か色々詰まっとります。
一発ガツン、としたものが欲しい。
うーん、自分でも何言ってるんだか。
とりあえずサイトリニューアル&「パンドラ」完結かな。
次の長編のネタが、ぽんぽん浮かんできて困る。
あ、ウェブ拍手も更新せな。
塗り終わったよ!
■一時間SS
煙草、というと最初に思い出すのは親父の顔だ。
縁側に座った親父が、月を見上げながら、紫煙を吐きだすその姿が脳裏に焼きついている。
こちらが「健康に悪いから、止めとけ」と吸うたびに言うのだが。
「――――今更止めても、ね」
と苦笑いで、いつもそう返すのだ。
その顔はどこか寂しげで、結局俺は何も言い返すことが出来なかったのだ。
〝Peace〟。そう刻印された紙煙草の煙を追う姿は、まるで平和を渇望しているかのようで――――切嗣は、その煙の果てに自分の理想を垣間見ていたのだろうか。
その姿が、どうしてか、とても似合っていて。
――――そして悲しかった。
紫煙が、ゆらゆらと目の前で揺れる。
「こぅら、士郎。煙草吸うなら、外で吸いなさい。部屋の中じゃ空気が悪くなるわよ。というか電気くらい付けなさい」
盆に二人分の緑茶とお茶菓子を載せて、凛が部屋に入ってくるなり、そう言った。
「……窓開けてるから大丈夫だろ。窓際で吸ってる分なら、そう問題でも無い。うん、それに今日は何だか月見をしたい気分なんだ」
此処から縁側まで銜え煙草というのも無作法だしな。
そう、と一言呟いただけで、凛は特に気にした様子も無く、部屋に入ってきた。
凛は俺が煙草吸うこと自体には、とやかく言わなかった。いつも余分なことは心の贅肉と言い張る彼女が。
その彼女は、俺の部屋の中心に陣取ると、盆を置いて、緑茶を啜りだす。
俺はその姿を一瞥すると、再び月を見上げた。――あの頃の、切嗣と同じように。紫煙の合間に、厳かなる月光が見える。
「……ねぇ、士郎。貴方が煙草吸いだしたのって、お父さんのお墓参りからだったわよね」
「ああ」
ロンドンでの事件を経て、一区切り付いた俺は――ようやく、始めて親父の墓参りをした。
実質、やってみれば何とも無いことだ。だけども、それは。
――いつも隣に居てくれる、この女性のおかげなんだろう、と思う。
「聞いていいかな。何で、急にそんなことを?」
凛の視線を肩越しに感じる。
それは何だか、少し躊躇しているかのようで――いつもの彼女らしくない、だけども彼女らしい仕草だった。
ふ、と苦笑する。今更、何を躊躇っているのか。
ずかずかと遠慮なく人の心に踏み込んでくると思えば、ここぞというときでは躊躇する。全く、凛らしい。
「こうすれば、少しは切嗣の見えていたものが、見えるかなって。知りたかったんだ。親父の見てきたものを、少しでも。だけど、そんなことは出来ないだろ? だからこうして親父の仕草を真似すれば、少しは見えるかなって、さ」
自分でも、よくわからないんだけどな、と付け足して俺は笑った。
いつか越えなければいけない壁。
赤い背中と自分の父親。
越えなければいけないからこそ、彼らが何を思い、何を見ていたのかを、知るべきだと、俺は思う。
「――――そう」
ずず、と緑茶の啜る音が聞こえる。
会話が途切れ、静寂が訪れた。
だけども決して気まずい空気などではなく。何故か今は、とても快いものだった。
りりり、と聞こえる虫の鳴き声。
部屋に差し込む月明かり。
綺麗な夜空。
それに――――
ああ、きっとそれは。
――――こんなにも月が、綺麗だからだろう。
ふと一つの出会いが、脳裏を過ぎる。
〝問おう。貴女が私のマスターか〟
……セイバー。俺、ちゃんと正義の味方、やってられてるかな。
煙草の煙を深呼吸の要領で吸い込み、紫煙を吐く。
紫煙は夜空に溶けていくようで、月に昇っていくようにも見えた。
その煙の狭間に。一瞬だけ。
〝――――当たり前でしょう。貴方の隣に誰が居ると思ってるんですか〟
そう言って、呆れながらも微笑む彼女の姿が――――
「しーろう!」
「うわ、どうした凛。近い近い近い」
思わず煙草を落としそうになる。
凛が、いつの間にか、寄り添うように肩にもたれ掛かっていた。
「ねぇ、私にも一本ちょうだい」
「おいおい。体に悪いから止めとけって」
「む。今の士郎がそれを言うかっ。一本くらい良いでしょ?」
まぁ確かに。灰を落としながら言う台詞じゃないな。
そう思い、仕方なしに、くしゃくしゃになった紙パックから一本寄越す。
「火は――――」
「今、貴方が口にくわえてるじゃない?」
ニカ、と笑う凛。
ふ、と苦笑しながら俺は加えた煙草の先端で、凛の口元にある煙草に火を付けてやった。
両者にあるのは僅か煙草二本分の距離。
それは、まるで口付けをしているかのような――――
「――――っつ!! げほっ! げほっ!」
まぁしかし、そんなロマンチックな雰囲気は、咳き込む凛によって、ぶち壊されたわけだが。
「はははははは、まぁ始めはそんなもんだ」
「う~~~~~~。アンタよくこんなの吸っていられるわね……」
そう言って、緑茶で口直しをしようとする凛。
だが、その緑茶は、いつの間にか温くなっていたようだ。凛が僅かながら眉をしかめた。
「温くなっちゃってるわね。しょうがない。淹れ直してくるか……」
「ああ、俺も行くよ」
「そう? じゃ、士郎がお盆持ってね」
はいはい、と苦笑しながら、煙草を灰皿に押し付けて、立ち上がる。
さて、感傷はここらで終わりにして。
このお姫様に、飛びっきりのお茶でもご馳走してやるとしますか――――
後に残ったのは、くしゃくしゃになった紙のパッケージと、一つの灰皿。
パッケージに印刷された文字は〝LUCKY STRIKE〟。
――――共にある彼女に、幸運あれ。
二本の煙草が、灰皿の中で、寄り添うように、月へと紫煙を立ち昇らせていた。
短編『Tune of Two cigarettes / op."LUCKY STRIKE"』
――<了>
一時間丁度で書き終わる。
ようやっと、ペースが掴めて来たかな?
LUCKY STRIKEもPeaceも良い煙草です。
◇今日のBGM◇
"Melodic Storm -DEAR EDIT-" from ストレイテナー 「Dear Deadman」PR